
前回までの記事では、「流体ロータリージョイントの構造・用途・機能」について解説いたしました。
1)電気ロータリージョイント(スリップリング)の構造・用途・機能
今回のコラムはロータリージョイントの取り扱い・不具合モード等について解説いたします。
電気、光、流体並びにこれらの複合ロータリージョイントの取り付け・使用時は、常に本体固定側と回転側との間に生じる、ラジアル(回転軸に垂直)方向及びスラスト(回転軸に平行)方向に掛かる力(負荷)が最小限となるように努めることが必要です。如何にこのような負荷が”0”に近づけられるかがポイントとなります。
この点は、常にロータリージョイント搭載機器設計・製造・使用者に注意喚起することが必要です。このことを怠ると、ロータリージョイントのベアリング・回転機構に影響を及ぼす要因となりロータリージョイントの回転寿命にかかわることになります。
よくあるケースとして、長期間搭載装置を稼働させていない場合、もしくはロータリージョイントを長期間保管した場合、稼働・使用前に各電気パスの導体抵抗を計測してみると桁違いに高い値を示すことがあります。
この主だった原因は、電気ロータリージョイントのリングのブラシ(カーボンを主成分として金属粉を混ぜた固体ブラシ)との接触表面の酸化膜です。この酸化膜は、リング材質が空気に長時間触れることにより生成されます。ただし、この酸化膜は脆く、ロータリージョイントを回転させることでリングーブラシ間の摺動摩擦力により、比較的容易に取り除くことができ、回転させるに従い抵抗値は次第に低下し落ち着きます。通常、数十回以上回転すると取り除くことができるケースがほとんどです。
屋外用途の場合、長期間太陽光に曝される場所(日陰でも空が見える場所)での使用は、紫外線や熱がプラスチック・エラストマー材質部(電線被覆、O-リング等)を劣化させます。
例えば、電線が太陽光(紫外線)に曝され続けると電線被覆が固く脆くなり、弾性が失われ、曲げなどによりヒビ・割れが生じ易くなります。電線被覆にヒビが入ると、雨水や湿気が入り込み、短絡などの事故につながることも起こりえます。電線などは屋外使用時、保管時は、ホース・カバーなどで覆い、太陽光(たとえ日陰でも)に曝露しないようにすることが必要です。
次の二つのケースが典型事象です。
(ⅰ)長期保管時、高温・高湿下(製品の絶縁体材質にもよるが、>25℃~30℃、>60% RH)では、絶縁体の吸湿効果が促進される。一旦、絶縁体が吸湿すると、その水分は排除し難いです。その結果、絶縁抵抗が大きく低下し、使用時に製品基準絶縁抵抗値を大きく逸脱していることがあります。
(ⅱ)長期使用してゆくと、絶縁抵抗が次第に低下してゆきます。リングとブラシの接点が擦れ摩耗粒子(通常は、ブラシの摩耗粒子が多く、カーボン粒子に金属粉が混ざっている)が発生します。累積回転数が大きくなるに従い、この摩耗粒子も多くなり、リングーブラシ接点周辺及びリングーリング間の絶縁体表面にも蓄積されてゆきます。
すると、摩耗粒子の蓄積量が増えるに従い、隣接電極間の絶縁抵抗も低下してきます。いずれの事象においても、絶縁抵抗の低下は、特に高電圧用途の場合の絶縁破壊事故(漏電、短絡等、火災や感電につながる)の危険性が高まります。このような危険性を可能な限り低くする為に絶縁抵抗を復帰させるにはメーカーにおける製品オーバーホールあるいはクリーニングが必要となります。
(ⅰ)の防止対策には、高温・高湿下での保管を避けること。しかし、近年は絶縁体として低吸湿性材料が用いられることが多くなってきましたので、比較的古い製品ほどこの事象の発生する可能性は高いと思われます。
(ⅱ)に関しては、絶縁低下による使用上の支障・事故につながることの予め予防対策として、なるべく頻度多く定期的に絶縁抵抗計測を実施することです。製品規定値から逸脱した際、適切な処置、早めの段階でのメーカーによる製品クリーニングあるいはオーバーホールを進めることです。ただし、信号用途のブラシは近年、ワイヤータイプを採用しているケースが多く、この場合、摩耗粉発生は低く抑えられている為、摩耗粉の絶縁低下への影響は低いことが多いです。
*次回はロータリージョイントに関する取り扱い・不具合モード等(その②)を予定しています。
詳細についてお知りになりたい方はお気軽にご相談ください。